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怪・お盆に白装束の老婆が呼び込むもの。/駐車場管理人の記憶9

駐車場管理人の記憶
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今年もお盆が来る。

あの年のお盆の出来事は忘れない。

白装束の老婆がやってくる。

当駐車場の敷地は木造の長屋の家が20軒ほど建ち並んでいた。

バブル経済の頃に地上げに合ってすべて立ち退きで空き家になった。

バブル経済崩壊後長らく放置され廃屋になっていた。

それを解体して駐車場にした。

解体中にその老婆が現れた。

何ちゅうことするねん!南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏

井戸があったやろう!埋めたんか?祟られるぞ。

無理に立ち退かされたやつがなぁ・・・中に居るぞ。

白装束で数珠もった老婆が文句を言っている。

社長「誰やねん。気色悪いこと言うなぁ・・・もう帰って帰って。もう来たらあかんで。」

老婆はいったん帰ったが次の日も数珠を持って「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏」と唱えてる。

「こらー!」と社長が怒ると去って行った。

お盆前に再びやって来た老婆

8月になってすぐだったか老婆がやって来た。

「あのな~教えといたるで。もうじき盆やろ。毎年戻って来るねん。」

私「えっ!だれが?」

老婆「ちゃんとなぁ、お供えしときや。ようさん来るで。今年は家ないから暴れるかもしれへん。」

「わてはなぁ毎年米と酒と花供えてるから、盆になったらまたくるから」

と言って帰って行った。

離れたところにいた社長に老婆の話を伝えると、

社長「うっとうしいババァやな~。あかんで。お供えなんか駐車場に置いていったら。」

手を合わせる元住民

8月13日の朝いつもの通り場内の清掃をしていると、
奥の通路で数珠を持った初老の男女が拝んでいた。

私の姿を見ると一礼して「すみませんね。ちょっと拝ませてね。毎年拝ませてもらってるから」

その人たちが居なくなると入れ替わりで別の人たちが同じように拝んでいった。

キュウリに割り箸を4本刺したモノを置いていく人もいた。

花やお供えを置いて拝む人もいる。

社長が「そんなん置いていったらあかんで。持って帰ってや。」と言うと、

「去年までは家が在ったけど、駐車場になったからアカンわなぁ・・・もう・・・」とため息をついた。「そやけどな可哀想やから隅の方にちょっとだけお供えさせてもらわれへんか?」
「今年で最後や。もうここには来たらあかんと言うから。お供えにちゃんと事情を込めとくから。」

余りにも言うから根負けして「ほな今回だけやで。目立たんとこに。奥のフェンスの外側。中に入れたらあかんで」と言って許可した。

「ホンマ、どないなってんねん!自分とこの家でやれば良いのに。」

夜の10時になった。

「今日は車の数少なかったなぁ。みんな盆休みでこっちに来る用事が無いのかな。明日もこの調子やったら昼で閉めよか。」と話しながら帰る用意をしていたら例の老婆がやって来た。

一升瓶と花を手押し車に乗せて提灯もぶら下げている。

「遅いな、もう来んと思てた。」と私が言うと、

老婆「今朝からおったで。」

「えっ!うそー!全然見てないで。何処におったん?」

老婆「ずっと、子供らの世話してた。子供は先に来るからな・・・大人は今からや。」

老婆「ところでお盆は数珠持つなあかんで。手放したらあかん。あんたら数珠は?余分にあるから譲ったるで。1万円や。二つで2万円。」

社長「いらんわ!」
「わしらもう帰るねん。もう誰も駐車してないから今晩は居ても良いけど散らかしたらあかんで。片付けて帰りや。一晩中勝手に拝んどきなはれ」

帰り道に社長は「あれは新手の霊感商法やな。あのババァ鬱陶しいから盆の間は休業しよ。」

「そやなぁ、16日まで休ませてもらおか。」私は久しぶりの休みに心が弾んだ。

来るぞ~戻って来るぞ~数珠をもて!

15日の夕方に社長から電話があった。

「今、警察から連絡があり昨晩大騒ぎして騒音で眠られへんと近所からクレームが入ったらしい。
ちょっと、駐車場に行って見てきて。わしも後から行くから。」

駐車場に着くとえらい散らかっていたので掃除を始めると、

近所のビルのオーナーがやって来て「真夜中に盆踊りやってたやろ。ここらの盆踊り大会は公園であるけどまだやで。こんなとこで練習されたら迷惑や。」と怒られた。

「クソ!あの婆ちゃんやな。勝手なことして、もう出入り禁止や。」と独り言を言いながら掃除をして社長の到着を待った。

社長はなかなか来ない。

管理人小屋から100メートル離れた駐車場の奥突き当たりに老婆が立っているのが見えた

と、その瞬間、もの凄い勢いで老婆が走ってくる

えっ、うそー!100メートル走か?と思うほどの速さ。

数珠をなげつけて、

「数珠をもて!地獄の釜が開いてるぞ!早く送り返せ!来るぞ~戻って来るぞ~ううぉ~!」

怖い!そのとき初めて恐怖を覚えた。

老婆が怖い!!背中に居る!老婆の背中に確かに居る!

私は数珠を掴み走り出そうとしたとき地面から無数の手が出てきて足をすくわれてしまった。

ひぇ~!

ガタガタ震えて涙ながらに「すみません、すみません」

南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏

「許して許してすみません南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏 すみません」

思いつくままにあらゆる言葉で詫びを入れ発狂した。

しかし容赦なく黒いモノが上から覆い被さり首を絞められ気を失ってしまった。

数珠と首のあざ

どのくらいたったのか、あたりがすっかり暗くなったころ目覚めた。

管理人小屋の中に居た。

夢ではない。

足を摑まれた感触、首を絞められたアザが残っている。

何よりも古びた数珠が手首に掛けられたままだ。

後から来た社長に何度説明しても信じて貰えなかった。

「数珠、買ったんかぁ~アホやな~。」

ま と め

戦前からあった長屋の家にはいろいろな歴史があるのだろう。

そこに暮らしていた人たちの日々の苦楽や歴史、ご先祖様の魂。

何のお祓いもせずによそ者である私たちが勝手に家々を壊したのは恐るべきことだったのかもしれない。

あの日から老婆の姿は見えなくなった。

誰に聞いても老婆のことは知らないと言われる。

初めから存在していないような無関心ぶりだ。

28年経った今では、ここに多くの長屋が在ったことさえ知らない人が増えた。

もう誰も拝みに来る人は居ないが、私はお盆には管理人室からそっと手をあわせる。

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コメント

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